2003年9月30日火曜日

2003/09/30 巽孝之 参考文献

9/30 巽孝之(コーディネーター)「情の批判——アメリカ文学史の場合」

□Boudreau, Kristin. Sympathy in American Literature: American Sentiments from Jefferson to the Jameses. Gainesville: UP of Florida, 2002

新歴史主義批評の勃興以後、初期アメリカ文学を特徴づける情としての「共感力」(sympathy)がいかに構築されたのかを分析する批評書はジェイ・フリーゲルマンをはじめ少なくないが、なかでも本書は、共和制文学から世紀末文学まで、トマス・ジェファソンからヘンリー・ジェイムズまでを広く射程に収めて読み応え充分。

□Cvetkovich, Ann. Mixed Feelings: Feminism, Mass Culture, and Victorian Sensationalism. New Brunswick: Rutgers UP, 1992. 

フェミニズム批評からクイア批評にまで通暁した著者は、影響力でもあり感染力でもある「情動」(affect)に注目しヴィクトリア朝小説を中心にめくるめく再解釈を展開、マルクスの『資本論』すら煽情的物語学の産物と再定義する。

□イマニュエル・カント『判断力批判』(上下)篠田英雄訳(原著1790年、岩波文庫、1964年)

何もいうことはない。啓蒙主義最大の思想家が知・情・意の根本を問い直した結果、芸術と技術の本質を深く思索するに至った必読文献。

□巽孝之『アメリカン・ソドム』(研究社、2001年)

共和制時代を中心としながらロマン主義時代、ひいてはポストモダン時代までを見渡し、前掲ブードロウとはまたちがった視点より、共感力のもたらすユートピアとディストピアの二律背反を理論づける一冊。

□土居健郎『「甘え」の構造』(弘文堂、1971年)

日本独自の「甘え」概念が広く世界全体を解釈するにも有益であるのを知らしめたロングセラー。スポック博士の「子供を甘やかす」育児書が「子供の世紀」とともにヒッピー文化に集約される全世界的な対抗文化、いわば「人類的な退行現象」の形成に力を貸したことを認めるも、それが「何らかの創造活動と無縁であるとは言い切れない」とするヴィジョンは、いまもなお刺激的だ。

情の技法 2003 Keio University